認知症回避で注目されている栄養素α-GPCについて、製造・販売している食品原料メーカーにインタビューしました。
α-GPCとはどんなものか?といった基本情報や、α-GPCが持つ多様な機能性について大変興味深いことを教えていただきましたのでご紹介します。
α-GPCとは?
α-GPC(α-グリセリルホスホリルコリン、英: Alpha-glyceryl phosphoryl choline)は、細胞膜の構成と補修に不可欠なコリンの補給剤(補給元)です。
コリンは、アメリカでは水溶性ビタミンとして取り扱われており、摂取推奨量も定められています。なお、日本では摂取の基準値や目安量は設定されていません。コリンの効果としては、副交感神経に作用するアセチルコリンの前駆体として、アルツハイマー型認知症の脳機能改善の可能性が報告されています。
しかし、コリンは肝臓以外の臓器ではほとんど合成できないため、食事から補給する必要があります。
α-GPCの構造
α-GPCは、リン脂質の一種であるホスファチジルコリンから2個の脂肪酸を脱アシル化(脂肪酸除去)した水溶性化合物です。
α-GPCの特徴
生体の構成成分で、母乳に含まれ、味は少し甘いという特徴があります。
イタリア・ロシア・韓国等では脳機能障害等の医薬品として、アメリカ・英国・ドイツ等でサプリメントとして、広く利用されています。日本では2010年2月に食品と認められ、以降、サプリメント等での利用が進んでいます。
α-GPCはヒドロキシ基(-OH)を2つ持ち、非常に潮解性が高く、水に溶けやすい特徴があります。
一方で加熱、酸には強い物質です。
α-GPCが含まれる食品
α-GPCは様々な食品に含まれていますが、その量はごく微量です。エビデンスにある1日1,200mgを食品から摂ろうとすると、豚肩肉11kgの摂取が必要です。
食品名 | α-GPC量(mg/100g) |
---|---|
マグロ(缶詰・水煮) | 5.9 |
豚肩肉(赤身・生) | 11.0 |
鶏レバー(生) | 16.0 |
キャベツ(生) | 2.9 |
バナナ(生) | 5.6 |
マッシュルーム(生) | 5.1 |
アーモンド | 1.2 |
USDA Database for the Choline Content of Common Foods
α-GPCのコリン補給剤としての特徴
α-GPCは効率よくコリンを補給できる栄養素で、ホスファチジルコリンと比べると約1/3の量で等量のコリンを補給できると言われています。
生体内でのコリンの役割
コリンは、循環器系と脳の機能、および細胞膜の構成と補修に不可欠な栄養素です。
また、体内の代謝調節などに深く関与し、他のビタミン等の代謝経路に関わっており、コリンの不足によって肝機能低下や脂肪肝、だるさ、貧血などが起こると言われています。
コリンは神経伝達物質アセチルコリンの原料
アセチルコリンの分泌量は加齢と共に減少し、この減少がアルツハイマー型認知症の原因の一つと考えられています。
α-GPCが海外で医薬品として使われる際には、アセチルコリン生成の効果を主に期待されています。
コリンと葉酸・ビタミンB12の関係
認知症患者は葉酸・ビタミンB12の血中濃度が低いと言われており、葉酸・ビタミンB12が不足するとホモシステインが余剰になり、高脂血症や動脈硬化の原因となる恐れがあります。コリンはホモシステインからメチオニンの生成にも関与しており、コリンの不足は葉酸・ビタミンB12の不足状態を招くと考えられます。
コリンの摂取量
アメリカではコリンが粉ミルクにも使われており、摂取の目安として、1日あたりの推奨量や上限量が年齢・性別ごとに設定されています。
年齢/性別など | 推奨量 ADI/AI (mg/日) | 上限 UL (mg/日) |
---|---|---|
幼児(0-1歳) | 125-150 | 未定義 |
子供(1-8歳) | 200-250 | 1,000 |
子供(9-13歳) | 375 | 2,000 |
成人男子(14歳以上) | 550 | 3,000-3,500 |
成人女子(14歳以上) | 400-425 | 3,000-3,500 |
成人女子(妊娠期) | 450 | 3,000-3,500 |
成人女子(授乳期) | 550 | 3,000-3,500 |
Institute of Medicine. Food and Nutrition Board. Dietary Reference Intakes: Thiamin, Riboflavin, Niacin, Vitamin B6, Folate, Vitamin B12, Pantothenic Acid, Biotin, and Choline. Washington, DC: National Academy Press; 1998.
α-GPCの多様な機能性
α-GPCには多様な機能性が研究によって明らかとなっています。
中枢神経への作用
- 認知症改善
- 学習能向上
- ストレスホルモンの分泌抑制 など
末梢神経への作用
- 成長ホルモン分泌促進
- 肝機能障害改善
- 血圧低下作用
- 競技パフォーマンスの向上 など
α-GPCによるアルツハイマー型認知症の改善効果
軽度~中程度のアルツハイマー型認知症患者261名(α-GPC摂取:132人、プラセボ:129人)に対して、α-GPC400mgを1日3回(1日あたり1,200mg)180日間摂取したところ、ADAS-Cog、MMSE、GDS、ADAS-Total、およびCGIスコアは有意に認知度が改善し、アルツハイマー型認知症患者への改善効果が認められた。
参考論文:Clin Ther. 2003 Jan;25(1):178-93.
α-GPCによる成長ホルモン分泌促進
平均年齢25歳の健康な男性8名を対象にした二重盲検無作為化クロスオーバー試験において、α-GPCを1,000 mg摂取したところ、α-GPCの摂取によって血液中の成長ホルモンや遊離脂肪酸の濃度と肝脂肪酸化(分解)の指標が有意に増加した。
参考論文:Nutrition. 2012 Nov-Dec;28(11-12):1122-6.
α-GPCによる老化抑制
老化促進マウスを用いてα-GPCの健康効果について調べたところ、コントロール群と比較してα-GPC摂取群のマウスでは老化評価スコアが有意に低く、神経炎症や関節変性の減少もみられた。
参考論文:Biosci Biotechnol Biochem. 2018 Apr;82(4):647-653.
α-GPCの機能性への期待
α-GPCはこの他に、睡眠の調整機能(寝付きが良くなった・寝起きが良い)、集中力向上、スポーツパフォーマンス向上、脂肪燃焼、記憶力の向上、アンチエイジング効果などの研究が進められています。
α-GPCは摂取後30分~1時間後に成長ホルモンの分泌を調整(分泌抑制ホルモンのソマトスタチンの分泌量抑制と、分泌促進ホルモンのGHRHの分泌量増加)することが研究されています。
摂取後すぐ(1時間程度)の効果を期待する場合は「スイッチを入れる役割」としてα-GPCを1度に500~600mg程度の摂取、認知機能の維持・向上を目的とする場合は海外の研究にもあるように1日あたり1,000~1,200mgの摂取で効果を得られると考えられています。
α-GPCのまとめ
海外では脳機能障害等の医薬品として使用されているα-GPC。脳機能、細胞膜の構成と補修に不可欠なコリンの補給剤として、認知症回避の機能以外にも様々な機能が期待されています。
認知症機能の向上を目的した場合はα-GPCを1,000~1,200mg(1日あたり)摂取、他の目的であれば500~600mg程度でも効果を期待できると考えられます。
またα-GPCは摂取のタイミングを変えることで、脂肪燃焼や睡眠の質の向上、集中力向上など、期待できる効果が替わることも非常に面白い素材であると言えます。