認知障害は日常生活動作(ADL)を著しく妨げるほど深刻ではないが、この疾患は進行性であり、認知障害が蓄積するにつれてADL〔特に財政管理や電話の使用などの手段的日常生活動作(iADL) を実行する能力〕に問題が生じる可能性がある。そこで、121名の軽度認知障害(MCI)患者を対象に平均で約34か月間追跡し、軽度認知障害者が認知症に移行した場合と軽度認知障害者が安定している場合とではiADL低下に違いがあるのかを調べた。
研究方法
MCIから認知症に移行した47名の参加者は「進行者」、著しい認知機能の低下を示したが研究期間内に認知症の基準に達しなかった16名の参加者は「減退者」、追跡期間中、認知的に安定していたMCI患者58名は「安定したMCI」とした。なお、参加者の認知機能は6種類の神経心理学的テストを用いて、iADLのパフォーマンスについてはSystème de mesure de l'automie fonctionnelle (SMAf; フランス語の機能的自律性質問票) の手段的サブスケールを使用して評価した。
研究結果
複雑なiADLでは、進行者は長年にわたって安定したパフォーマンスを維持した後に加速的な低下が見られ、安定したMCIでは変化が見られず、衰退者では緩やかな直線的な減少が見られた。家事関連動作では、進行者では直線的な低下が見られ、安定したMCIと減退者では変化が見られなかった。また、MCI患者において認知症予測因子(エピソード記憶、実行機能、ワーキングメモリ、複雑なiADLスコア)を調べることは、翌年の認知症診断精度が高いことが分かった。
MCI患者では、複雑なiADLを実行する能力が低下すると、1~2年後に認知症になる可能性があります。