アルツハイマー病(AD)の発症には、脳内で遊離したアミロイドベータ(Aβ)モノマーが凝集することが関与していると言われている。また、ADの特徴としてミトコンドリアの機能不全が挙げられ、ミトコンドリアのホメオスタシスがADの発症に極めて重要な役割を果たしていると考えられている。そこで、ミトコンドリアの酵素を欠損させたADモデルマウスを使用し、ADにおけるミトコンドリアが果たす役割を調べた。
研究方法
ミトコンドリア外膜に局在する酵素である Mitochondria Ubiquitin Ligase(MITOL)がミトコンドリア機能を調節して恒常性維持に重要な役割を果たす制御因子であるため、神経特異的にMITOLを欠損させたアルツハイマー病モデルマウスを作製した。物体認識記憶と空間作業記憶については、15ヶ月齢のマウスを使用して、それぞれ新規物体認識テストとY迷路テストで評価した。
研究結果
MITOL欠損ADモデルマウスでは、通常のADモデルマウスと比べて、ミトコンドリアの形態や内膜構造の異常の他、ミトコンドリアのATP産生活性の低下や酸素消費量の減少が見られた。また、MITOL欠損ADモデルマウスでは認知機能低下と行動異常を起こした。さらに、MITOL欠損ADモデルマウスに沈着したAβ不溶化線維はAβの凝集を加速させ、毒性の高いAβオリゴマー形成を促進した。
ミトコンドリア機能の調節機構が破綻すると毒性の高いAβオリゴマーの産生を誘導し、アルツハイマー病の病態を悪化させる可能性があります。