ミトコンドリア呼吸によって生成された細胞内エネルギーは、シナプスの可塑性や構造(樹状突起の長さや密度など)の調節、学習や記憶に関わる神経栄養因子の放出などに利用されている。これまでに、ミトコンドリア機能を改善するための合成薬が開発されているが、ミトコンドリアを直接標的にしてシナプス可塑性を調節する天然化合物は開発されていない。そこで、朝鮮五味子エキス(SCE)とアスコルビン酸(AA)の混合物によるミトコンドリア機能改善と認知機能への影響を調べた。
研究方法
胚性マウス海馬mHippoE-14細胞を使用し、SCE、AA、またはSCEとAAの混合物を含む培地で24時間インキュベート後に酸素消費率(OCR)を測定した。動物実験では8週齢の雄C57BL/6マウスを使用し、SCE、AA、SCEとAAの混合物(1回あたり10 mg/kg)、生理食塩水を24時間間隔で3回腹腔内注射した後に行動試験〔オープンフィールドテスト、恐怖記憶テスト、新規物体認識(NOR)テスト〕を行った。
研究結果
細胞をSCEのみ(10μg/ mL)で24時間処理した場合はミトコンドリアのOCRに変化は見られなかったが、SCEとAAの混合物の処理ではコントロールと比較してOCRが有意に増加した。 動物試験の恐怖記憶テストでは、SCEまたはAAのみを与えられたマウスはコントロール群と同等であったが、SCEとAAの混合物を与えられたマウスは他のグループよりもすくみ行動が大きく、物体認識テストではSCEとAAの混合物を与えられたマウスは海馬依存性の物体認識記憶が有意に増強された。また、海馬シナプス後肥厚タンパク質95(PSD95)レベルがSCEとAAの混合物を与えられたマウスで増加し、その増加は脳由来神経栄養因子(BDNF)の発現亢進と相関していることが観察された。
SCEとAAの混合物はミトコンドリア機能を改善し、アルツハイマー病や加齢に伴う記憶力の低下を緩和する可能性がある。