日本抗加齢医学会認定施設で認知症・MCIの専門外来を持つ池岡クリニック院長 池岡清光先生(以下、池岡先生)に「認知症に取り組むきっかけ」「運動と認知症回避の関係」「ご自身が実践されている認知症予防」を中心にインタビューさせて頂きました。
「つけた筋肉は裏切らない」と語る池岡先生は運動の重要性に着目し、池岡クリニックのビル内にリハビリスタジオ・鍼灸院を併設。池岡クリニックから約100m離れた池岡ケアビルではケアプランセンター、訪問リハビリ、三種類のデイサービスといった介護事業も運営されています。
第1話では認知症外来やデイサービスをお持ちの池岡先生の認知症への取り組み、認知症患者のご家族の方のケアについてご紹介いたします。
認知症に取り組むきっかけは「母親の認知症発症」と「認知症対応型デイサービスの開設」
清水
池岡先生はもともと内科医として循環器を専門とされていますが、認知症に取り組むきっかけは何だったのでしょうか?
池岡先生
認知症を勉強するきっかけになったのは僕の母親が認知症になったことです。15年くらい前でしょうか。母はレビー小体型認知症でしたが、当時はレビー小体型認知症の認知度は低く、僕自身もあまり知識がありませんでした。
母は骨髄腫という慢性的な病気を患っていて某病院にかかっていました。ある時、母の様子で気になることがあり主治医の先生に診てもらいましたが、その先生も認知症が専門というわけではなく、なんとなくうまくいっていないという感覚がありました。そこで自分自身で認知症について勉強してみることにしました。
また同時期に患者さんの中で認知症の方が増加していて認知症対応型デイサービスの開設を考えていたこともあり、「これは認知症をちゃんと勉強せなあかんな」と決心しました。
これらが認知症の分野に取り組んでいくきっかけとなりました。
コウノメソッドとの出会い薬でコントロールできない認知症
池岡先生
「専門外の医者が認知症を勉強するにはどうするか」と考えている時に出会ったのが河野和彦先生のコウノメソッドでした。コウノメソッドを読んでとても納得したところがあり、コウノメソッド実践医の方々にメールしたり直接お会いしたりすることからはじめました。
なぜ認知症にそこまで熱心になったかと言うと、使命感というよりは奥が深いと感じたからです。僕が専門としている循環器は、いま薬がすごく良くなっています。外来で診ている患者さんの多くは高血圧や糖尿病ですが、そういう患者さんは薬でほとんどコントロールできます。本当に薬が良くなっていて難渋するケースはそんなにありません。
ところが認知症は全然違いました。難渋しかないといった印象で、仕事として取り組み甲斐があると思いました。
開業医が認知症に取り込む難しさスタッフの力が必要
池岡先生
実際に認知症外来をやっていて思うのは「開業医がたった一人で認知症に取り込むのはすごく難しい」ということです。認知症のご本人とは話がうまくできないことが多く、ご家族にお話を伺うことになります。そういった時にもスタッフの助けが必要になります。
僕のクリニックは幸い、認知症対応型デイサービスの管理者で認知症に取り組んでいるケアマネージャーの女性スタッフが認知症外来のサブについてくれています。彼女は意識が高く認知症の勉強もよくしてくれています。診察前に問診や認知症のテストの実施、その際にご家族の気持ちもいろいろと聞いてくれてその結果を僕に連絡、その上で診察します。
身体所見も大切ですが、普段の状態を知るにはご家族の意見を聞くことが大事です。診察を終えてご家族と話しをするため患者さんに診察室から出ていただくことがありますが、その際に患者さんをケアしてくれるスタッフがいるのは大変助かります。
僕のクリニックでは協力してくれるスタッフがいたので認知症外来をやっていこうと舵を切れたのだと思います。
こういった日々の診療を通し、クリニックの良し悪しは医者の差よりもパラメディカルの差が大きいのではないかと感じています。
新患患者さんの約1割が認知症外来
清水
新患患者さんのうち、認知症外来の患者さんはどのくらいいらっしゃいますか?
池岡先生
新患患者さんのうち1割が認知症、1割が男性更年期、残りの大部分がいわゆる生活習慣病という割合になっています。2割の患者さんが専門外来の方ということになります。
認知症外来を目的で来院される方は区外の方も多いです。城東区内で来られる患者さんもいらっしゃいますが、区外が多い印象です。男性外来もほとんど区外です。
今はクリニックのホームページだけでなく色々な検索サイトがあり、認知症外来についてご家族の方が検索・予約して来院されます。
認知症外来には種々の認知症だけでなくうつ病の方、自閉症の方など、多種多様な患者さんがいらっしゃって、外来としては興味深いと思います。
認知症患者さんは独居の方も多いコミュニケーションの重要性を
池岡先生
認知症が他の疾患と違うのは薬があまり有効でないことです。認知症はどう生活をマネジメントしていくかが重要です。デイサービスを治療の一環としてお勧めするケースが多く、デイサービスのような社会性のあるシステムを利用していただいたほうが認知症の症状が良くなるケースが多いと感じています。
薬よりもちゃんとコミュニケーションをとること。認知症患者さんは独居の方も多いです。独居で動かず食事もちゃんと摂っていない。本人はごはんを食べていると言っても、よくよく訊くと1日にパン1個といったように栄養状態が悪いことが多いです。うちでボーっとテレビだけ見ている。誰とも喋らない。お風呂にも入らない。歯も磨かない。こういう生活では誰でも認知症になると思います。
そのような生活習慣を変えるためにデイサービスが有効ですし、薬よりもコミュニケーションが有効だと感じることが多いです。利用者さんを迎えに行って、食事をする、風呂に入る、みんなと喋るということを通して明らかに改善します。もちろん重症度により無効なこともありますが。しかしご家族の負担を軽減するということでも意味があります。
認知症患者のご家族の不安を和らげる認知症カフェ
池岡先生
認知症患者さんをクリニックに連れてくるご家族の方は、言葉に出して言わないものの自分も認知症になるのではないかと気にされているようです。
僕は月に1度認知症カフェを開いていて、認知症患者さんの介護者の方だけに来てもらっています。それは認知症で一番困っているのは介護される周りの人だと思うからです。ご本人の不安もあると思いますが、周りの方々の負担がそれ以上に大きいと思っており、それらの方々のフォローが大事だと思います。一緒の立場になった方たちが話し合うと、どうしたらよいかがよくわかってきます。そういう場として認知症カフェは大事だと思います。
介護者さん・ご家族の不安を和らげる目的で、同じような境遇の人を集めて認知症カフェを開くと、みなさんすごくよく喋ります。「こんなことで苦労している」と言う人がいると、他の人が「これはこうしたらいい」と情報を共有しあって話が盛り上がっています。
その時に「いかに認知症にならないか」ということもよく話題になります。こちらからも「認知症を防ぐにはどうしたら良いか」というショートレクチャーをすると、みなさんすごく反応されます。
認知症カフェは、僕が産業医として伺っている障害者施設で開催しています。そこでは障害のある方が働く喫茶店をやっていて、障害のある方がコーヒーを出してくれます。認知症カフェの参加代金は、コーヒーとケーキをつけて500円いただいています。参加した方はみなさん「ホッとする」とおっしゃってくださいます。親が認知症だと言われてどうしたらよいかわからず、とりあえず医療機関に行って検査して「認知症は治らない」「薬を飲んでください」とだけ言われて帰ってくる。この先どうしたらよいかわからないと悩まれていたご家族が多いです。
僕のところの認知症カフェは僕を含めて医者が大体3人出席します。理解のある医者仲間がいて本当に有り難く思っています。テーブルごとに医者が1人ついて、認知症のご家族の疑問にお答えしたり新しい情報をお伝えしたりする。当院や他の施設のケアマネージャーやデイサービス職員など介護専門のスタッフも参加することで、みなさんの疑問点に答えられる仕組みにしています。
「介護者を救済するため」というはっきりした目的があるので、職員にも手伝ってもらいやすく、認知症患者さんのご家族も参加しやすくなっています。
第2話 池岡先生に学ぶ認知症回避策につづく
第1話では認知症・MCIの専門外来を持ち、デイサービス事業も手掛ける池岡先生の認知症への取り組み、認知症患者のご家族の方のケアについてご紹介しました。
第2話では池岡先生が考える認知症回避方法や、実際に取組んでいる認知症回避方法をご紹介しております。
【第2話】「身体は知性」「血糖と筋肉を制する者はエイジングを制す」「脱ペットライフ」池岡先生に学ぶ認知症回避策
インタビューさせていただいた先生
医療法人池岡診療所池岡クリニック
院長 池岡清光先生
医学博士、総合内科専門医、循環器専門医、認知症予防学会専門医、抗加齢医学会専門医・評議員、NR・サプリメントアドバイザー
大阪府城東区に認知症外来をもつ池岡クリニックと、ケアプランセンターやデイサービスなど介護分野を担う池岡ケアを展開。
「あしたを守る、あなたを見守る」を池岡クリニックの合言葉に、患者さんの心と体に寄り添い、「病気ではなく患者さん自身を診ること。患者さんの快適な生活を考えること。」を要として診療されている。
この記事の著者
清水真人
株式会社ヘルシーパス メディカル・サービス部部長